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建設会社の定着率は「辞める理由」より先に“測り方”で決まる

建設会社の定着率は「辞める理由」より先に“測り方”で決まる

2026年01月21日 13:46

——雇用動向調査×大手開示データで見える、人事制度設計の急所


「若手が辞めるのは現場がきついから」「賃上げすれば定着する」——。建設業の定着率を語るとき、議論はたいてい“辞める理由探し”に吸い寄せられます。しかし、国の一次データと大手各社の開示を突き合わせると、先に押さえるべきは別にあります。結論から言えば、定着率の勝負は、制度の中身より前に“KPIの定義(測り方)”で決まります

理由は単純です。離職は多因子で、現場・職種・年齢・ライフイベントが絡み合います。にもかかわらず、測り方が揃っていなければ、施策が効いたのか、母集団が変わっただけなのか、検証ができません。つまり、改善は語れても「証明」できないのです。




1. まず国の一次データで「辞める理由の優先順位」を固定する(2024年)

厚労省「雇用動向調査(転職入職者が前職を辞めた理由)」には、2024年の上位理由と前年差(pt)が整理されています。ここでは一次データが示す範囲に絞って、論点を固定します。

男性(2024年・上位5)

  • 1位:その他の個人的理由(20.2%、前年差 +2.9pt)

  • 2位:定年・契約期間の満了(14.1%、前年差 -2.8pt)

  • 3位:その他の理由(出向等を含む)(13.5%、前年差 -0.5pt)

  • 4位:給料等収入が少なかった(10.1%、前年差 +1.9pt)

  • 5位:職場の人間関係が好ましくなかった(9.0%、前年差 -0.1pt)

女性(2024年・上位5)

  • 1位:その他の個人的理由(24.3%、前年差 -0.8pt)

  • 2位:労働時間・休日等の労働条件が悪かった(12.8%、前年差 +1.7pt)

  • 3位:職場の人間関係が好ましくなかった(11.7%、前年差 -1.3pt)

  • 4位:定年・契約期間の満了(10.7%、前年差 +0.9pt)

  • 5位:給料等収入が少なかった(8.3%、前年差 +1.2pt)


ここでポイントは二つだけです(一次データが言っている範囲に限定します)


  • 賃金理由は男女とも前年差がプラスです(男性 +1.9pt、女性 +1.2pt)

  • 労働条件(労働時間・休日)は女性で上位かつ前年差プラスです(+1.7pt)。

この二点は、「肌感」ではなく、少なくとも2024年の一次データとして押さえてよい“動き”です。




2. “若手/中堅差”は職種別ではなく、年齢階級別の「突出値」で見る

同じ表には年齢階級別の内訳もあり、若手で突出する理由が数値で確認できます。ここが重要です。「若手が辞める理由」は、まず年齢階級で偏りとして見えるため、最初から職種別の議論に飛ぶと論点がぶれます。

19歳以下

  • 男性:その他の個人的理由 39.3%(突出)

  • 女性:職場の人間関係 34.0%/その他の個人的理由 32.4%(人間関係が非常に大きい)

25〜29歳

  • 男性:給料が少ない 16.9%/人間関係 11.5% が上振れ

  • 女性:労働条件 15.2%/人間関係 14.0% が上位

60〜64歳(中高年層)

  • 男性:定年・契約満了 54.6%

  • 女性:定年・契約満了 33.5%
    (男性65歳以上でも定年・契約満了 50.1%)

ここから一次データとして言えるのは、因果ではなく“配分”です。
「若手=人間関係・個人的理由」「20代=賃金/労働条件が相対的に強い」「60代=定年・契約満了が支配的」という構図が、少なくとも統計上の偏りとして見えます。




3. 建設会社の人事制度は「理由×KPI」を先に固定すると運用がぶれない

離職理由を、制度設計(会社が変えられる領域)に翻訳すると、優先テーマは次の五つに整理できます。ここでは効果を断定せず、“対応し得る制度テーマ”として整理します。


  1. 給料が少ない(20代で上振れ)
    → 「賃金決定の透明性」をKPIで測れる形にする(例:説明実施率、納得度など)。

  2. 労働条件(時間・休日)
    → 「休日・残業の結果指標」を現場単位で追う(例:現場別残業、休日取得、是正のリードタイム)。

  3. 人間関係(若年女性で突出)
    → 「上司運用(面談・相談導線)」を実施率で管理(例:相談SLA、1on1実施率)。

  4. その他の個人的理由(最大項目)
    → 「勤務地・両立支援」を“利用〜復職〜定着”の一連で追う(例:制度利用率、復職率、復職後定着)。

  5. 定年・契約満了(60代で支配的)
    → 「再雇用・契約更新の設計」を離職率と切り分けて定義(例:定年・満了を除外した自発的離職率)。

ここで肝になるのが、指標の定義(分子・分母・除外条件)を先に固定することです。ここが揃わない限り、改善は「印象」で終わります。逆に言えば、定義さえ固まれば、比較と検証が可能になります。




4. 数値で「改善が確認できる」事例に共通するのは、KPIの置き方

事例1:鹿島建設(単体)——早期離職・残業・育休が“改善の数値”として開示

鹿島建設のサステナビリティデータでは、少なくとも以下が年次推移で改善しています。


  • 入社3年以内の離職率:2023年度 5.8% → 2024年度 4.9%

  • 月間平均残業時間:2020年度 39.6h → 2024年度 30.5h

  • 年間総労働時間:2020年度 2,284.0h → 2024年度 2,162.6h

  • 男性の育児休業(育児目的休暇含)取得率:2020年度 40.3% → 2024年度 91.2%

  • 育児休業取得者復職率:2020年度 96.6% → 2024年度 99.6%

さらに「男性育休(育児目的休暇含)の取得率」は、分子・分母の定義が明記されています。
制度の良し悪し以前に、
測り方がぶれないことが強みになります。

事例2:大和ハウス工業(単体/連結)——離職率の“除外条件”を明示し、自発的離職率が改善

大和ハウス工業の追加開示(2023/9/29)では、単体の自発的離職率が
2021年度 3.9% → 2022年度 3.4% と改善しています。

注目すべきは、離職率の注記として 「定年退職者・期間満了は除く」 が明記されている点です。対象範囲(単体/連結17社、データカバー率75.4%)も記載されています。
ここで言えるのは因果ではなく、
定義が揃うことで社内比較と施策検証が可能になるという事実です。比較可能性が上がれば、意思決定は速くなります。




5. 参考:数値はあるが、改善断定はできない事例も押さえておく


改善の断定は避けつつ、継続開示として参考になる事例もあります。


  • 積水ハウス(ESG Data Book)
    育児関連・労働時間・年休などをKPIとして開示し、育休後定着率(復帰1年後)なども数値で出しています。また、制度側の条件定義を脚注で明記しています。ただし、育休後1年定着率はFY2021→FY2023で低下方向の系列も見られるため、改善事例とは断定しません。

  • 清水建設(社会パフォーマンスデータ)
    離職率(単体)を2019〜2024年で連続開示し、2024年は2.1%(2019年1.1%→2024年2.1%)です。こちらも改善ではなく、数値の継続開示事例として扱います。




6. 人事が“真似するなら何から?”——定着率改善を提案書に落とす最短ルート

最後に、一次データと開示事実から「確実に再現できる型」を、やることに翻訳します。因果ではなく、開示事実からの再現ポイントです。

① KPIの定義(分子・分母・除外)を先に決める

  • 大和ハウスは「定年・期間満了を除く」を明示しています。

  • 鹿島は男性育休取得率の算定式を明示しています。
    定義が固まるだけで、社内比較と施策検証の前提が整います。

② 離職が起きやすい層を“切り出して”KPI化

  • 鹿島の「入社3年以内の離職率」のように、層を切って追うことで、現場の打ち手が具体化します。

③ “辞める理由上位”に直結する指標を置き、国データと整合

  • 賃金理由は前年差プラス(男女)です。
    → 報酬納得度、賃金テーブルの説明実施率などのKPI設計に展開しやすいです。


  • 労働条件は女性で上位かつ前年差プラスです。
    → 休日・残業の現場別モニタリングをKPIツリーに入れる根拠になります。

  • 若手で人間関係が突出しています。
    → 若手オンボーデ、面談、相談SLAをKPI化する根拠になります。



このコラムで伝えたい“芯”


  • 国の一次データ(雇用動向調査)で、離職理由の優先順位とセグメント差は数値で固定できます。

  • 建設大手の開示から共通して言えるのは、「制度の中身」より先に “KPIの定義”を固め、追える形で出していることです。

  • その型を使えば、御社でも職種別(施工管理/技能職など)に同じ定義でKPIを切り、推測ではなく検証で施策を回せるようになります。




まとめ

ここまで見てきた通り、定着の議論は「辞める理由」から始めると、結局は解釈が割れやすくなります。先にやるべきは、KPIの定義を固め、セグメント別に追える状態をつくることです。土台ができれば、離職が減ったかどうかの検証も、改善の再現も可能になります。

ただし、現場で必ず直面するのはリソースの壁です。定着のKPI設計と運用を回しながら、同時に採用で母集団を確保する——この二つを、限られた人事体制で両立させるのは簡単ではありません。建設業では特に、「定着の改善が効くまで待つ」余裕がないケースも多いはずです。


だからこそ結論は明快です。「制度を整えてから採用」ではなく、“測れる設計”と“採れる実装”を同時に走らせることが、現実的な打ち手になります。定着を測れるようにするほど、採用もまた属人化では回らず、KPIで管理できる運用体制が必要になります。


その局面で有効なのが、採用の外部化と高度化です。新しい人材の確保は、採用代行(RPO)で応募対応・日程調整・一次スクリーニングなどの運用負荷を外に出しつつ、採用コンサルで施工管理・技能職など職種別の要件定義、選考設計、採用KPIの整備まで落とし込みます。これにより、現場の逼迫を止血しながら、定着KPIと採用KPIを一本の線でつなげて、施策の良し悪しを数字で検証できるようになります。


定着率を上げる会社は、採用もまた「再現可能な仕組み」に変えていきます。いま必要なのは、精神論ではなく、測れる定着と回る採用を同時に作る設計です。採用代行と採用コンサルは、その最短距離を支える現実的な選択肢になります。






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