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建設DXで求められる “これからの人材像”

建設DXで求められる “これからの人材像”

2026年01月27日 09:19

現場の声から考える課題提起

「アプリを入れたのに、現場が余計に忙しくなった」「BIM/CIM(3次元モデルを使って設計から施工まで情報連携する手法)を始めたが、結局2D図面に戻ってしまった」「遠隔臨場(カメラ映像で立会・確認する方式)を導入したら段取りが大変で疲れた」――建設現場でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中、こうした声は少なくありません。一方で、建設業界の担い手不足や高齢化、働き方に関する法規制(時間外労働の上限など)といった課題は待ってくれません。国の施策としても、公共事業におけるBIM/CIMの原則適用、ICT施工(3次元測量やスマート建機の活用)、遠隔臨場の実施要領策定、工事写真の小黒板情報の電子化などが進められ、DXはもはや「やるか・やらないか」ではなく「どう運用するか」が問われる段階に入っています。では、単にツールの紹介や「DXが必要だ」という議論を超えて、「これから求められる人材像」を現実の仕事に落とし込むと何が変わるのでしょうか。





DXで減る仕事・増える仕事は「前倒し」で説明できる

DXによって減りやすい業務は、転記・清書・移動といった“後追い”作業です。例えば、電子小黒板の導入は現場写真の整理の手間を減らし、遠隔臨場の活用は監督員の移動時間を短縮する狙いがあります。一方で、DXによって増えやすい業務は、着工前の合意形成・段取り調整・データ品質の管理など初期段階の仕事です。BIM/CIMやICT施工では後工程の手戻りを減らせる反面、プロジェクト初期に「論点を潰す」「前提条件を揃える」といった作業が増えます。もしこの初期対応を従来どおり担当者の“隠れ残業”で吸収してしまうと、せっかくのDXも現場に定着しません。

ポイント:DXは単なる省力化ではなく、業務の前倒しです。DX導入によって前倒しになった分の工数や役割、評価指標をきちんと設計できる会社ほど、DXの効果を持続的な成果につなげられるでしょう。





これからの人材像は「情報の品質を上げる人」

今後求められる人材像を一言でいえば、「現場の一次情報を意思決定に使える品質まで整えられる人」です。現場監督が単にタブレットやソフトに「入力できる」だけでは不十分で、設計・施工・発注者それぞれの意思決定がスムーズになるように、情報の粒度(細かさ)・整合性・提供タイミングを適切に揃える力が価値になります。写真・測量データ・出来形記録・協議履歴といった一次情報の質を上げ、判断待ちの停滞や手戻りを減らせる人こそが、デジタル時代の現場で重宝されるのです。

職種別:DXで求められる行動例と評価・育成ポイント

では具体的に、建設DX時代に各職種で求められる行動やスキルはどのように変わるのでしょうか。以下に主な職種ごとに行動例評価ポイント育成方法の例を整理します。


  1. 施工管理(現場監督)

    • 行動例:着工前に「モデル/図面上の論点」「検査で見られるポイント」「写真・出来形管理のルール」を1枚の資料に整理し、関係者で事前に合意する。遠隔臨場は単なるライブ配信ではなく、現場を見せる段取りそのものが仕事です。カメラ映像で何をどの順序で見せるか台本を作ることで、オンラインでも的確な検査・立会いが可能になります(※遠隔臨場の実施要領でも、適用範囲や進め方が定められています)。

    • 評価ポイント:手戻り件数の削減、協議事項の滞留時間の短縮、検査準備にかかる日数削減、提出書類の差戻し回数の減少——といった指標で現場運営の円滑さを評価できます。

    • 育成方法:「写真の撮り方」「データの命名規則」「承認フロー」「イレギュラー発生時の判断基準」といったルールをテンプレート化し、OJTでそれを再現できたかをチェックリストで評価します。新人~中堅監督が共通の型を身につけることで、属人化を防ぎつつDXツールを使いこなせるようになります。



  2. 設計(建築/土木)

    • 行動例:作成したBIM/CIMモデルを単なる見た目の3D模型で終わらせず、後工程で使うために必要な属性情報や座標系、版管理のルールを整備する。例えば部材ごとの仕様情報や出来形管理用の座標を盛り込んでおくことで、施工段階でモデルがそのまま検測や数量確認に活用できます。また、施工で詰まりやすい箇所(他工種との干渉や施工順序の問題)をモデル上で事前に可視化し、関係者協議の材料を先回りして用意します。

    • 評価ポイント:施工段階での質疑件数や手戻りの減少、設計数量の根拠説明が明確かどうか、といった点が評価指標になります。DXの効果を高める設計者は、施工者から追加問い合わせされなくても済むくらい情報が詰まった設計成果物を出せる人です。

    • 育成方法:「使われるモデル」を作るための要件(受け渡しデータ形式、更新頻度、根拠の明示方法など)を社内のレビュー会でパターン化し、設計者同士が相互点検します。蓄積されたナレッジをガイドライン化して共有することで、次第に全設計者の底上げを図ります。



  3. 積算・見積

    • 行動例:数量計算や見積の前提条件(範囲、仕様、図面やモデルの版など)を明文化し、変更があれば差分を追跡できる形で管理します。例えば数量算出に用いた図面のバージョンと範囲を一括表にまとめ、設計変更時にはどの部分がどう変わったかを即座に示せるようにします。

    • 評価ポイント:設計変更への対応スピード、変更差分の根拠を一貫して説明できるか、といった点が評価されます。DX下では積算ソフトの操作スキルよりも、情報管理とコミュニケーション(設計・現場との連携)の早さと正確さが重要になります。

    • 育成方法:過去案件での数量増減や設計変更差分の事例を教材化し、“前提条件リスト”の標準ひな型を整備します。新人積算者には、そのリストに沿って先輩の案件をトレースさせ、抜け漏れチェックの訓練を積ませます。



  4. 品質・安全管理

    • 行動例:「重要な証跡」を工程に埋め込む意識が求められます。例えば、コンクリート打設や配筋検査など工程ごとに、所定の写真撮影タイミング・確認項目・是正処置のクローズ手順をルール化します。また、電子小黒板の運用ルール(どの項目をデジタル入力するか、必要な機材と手順)は現場メンバーに事前教育し、周知徹底します。

    • 評価ポイント:不適合やヒヤリハットの再発率、是正処置が計画通りクローズする割合、レビュー(監査)対応の速さなどで評価します。要は、「データに基づいて安全・品質管理がPDCAサイクルで回っているか」を測る指標です。

    • 育成方法:過去の不適合事例やヒヤリハット事例を使い、「原因→対策→運用ルール」へ転換する演習を定期的に行います。単なる経験談で終わらせず、それを現場標準のルールに落とし込めるかを訓練することで、ルール策定と現場適用の両面に強い人材を育てます。



  5. バックオフィス(総務・情シス・労務)

    • 行動例:ITガバナンスや労務管理の専門部署も、現場DXを支える重要な役割です。具体的には、現場でデジタル機器やクラウドを無理なく使えるよう権限設計・データ保存・端末運用のルールを「現場が回る形」で定めること。また、働き方改革関連の制約(建設業の時間外労働の上限規制など)を前提に、人員配置や業務計画を見直すことです。たとえば週休2日を確実に取得させるための工期設定やローテーション策など、単に「規則だから守って」と指示するのではなく、守れる運用を提案・設計します。

    • 評価ポイント:現場と本社間での二重運用(紙とデジタルの重複など)の削減度合い、現場からの問い合わせ件数の減少、システム運用トラブルの減少といった指標で評価します。DX推進に強いバックオフィスは、「縁の下の力持ち」として現場スタッフが本来業務に集中できる環境を整えることに貢献します。

    • 育成方法:バックオフィスの担当者も定期的に現場に足を運んで同席し、「どこで業務が詰まっているか」を観察します。その上で規程と現場実務のギャップを洗い出し、改善策を提案・実行する訓練を重ねます。単なるITスキルだけでなく、現場視点で運用設計できる人材へと成長させることが目標です。





採用のミスマッチを防ぐ「DX人材の定義」

「DX人材=ITに詳しい人」と漠然と定義してしまうと、採用後に現場とのミスマッチで苦労するかもしれません。建設DXで本当に必要なのは、ツールを使って“業務のやり方を変えた経験”を持つ人です。したがって採用面接では、応募者が挙げるスキル要件を「使えるソフト名」だけで判断するのではなく、例えば以下のポイントに着目すると良いでしょう。


  • 現場の滞留を減らした経験:何かの工夫や改善で、現場の手待ちや情報滞留を解消した実績はあるか。たとえば「○○のデジタル化で、承認待ち日数を△△日短縮した」等。

  • ルールを標準化した経験:属人的だった現場ルールを見直し、テンプレート化・標準化して定着させた経験はあるか。DXツール導入時に抵抗勢力を説得し、社内ルールをアップデートしたような実績。

  • 抵抗や対立を解消し定着させた経験:新しい施策導入時に起きる現場との軋轢をどう乗り越えたか。意見対立をまとめ、現場に根付かせた経験があれば、次のDX推進でも再現性が高いでしょう。


このような視点で実績を引き出す質問をすれば、真に現場で活きるDX人材かどうかを見極めやすくなります。「何のソフトが使えるか」以上に、「その人が現場にもたらした変化」を採用段階で具体的に語ってもらうことが重要です。






DX定着に向けてできること

最後に、組織としてDX人材の確保・育成や現場DXの定着を進めるための具体的なアクション例をご紹介します。


  • 現場DXの自己診断:現在の現場業務で「どこに滞留やムリ・ムダがあるか」「デジタルとアナログの二重運用がどこに潜んでいるか」を棚卸しするチェックリストを活用し、最小限の運用ルールから改善を設計してみましょう。

  • 採用基準の見直し:「DX人材の要件定義」(面接での質問例や評価項目)を練り直し、現場で本当に活きる人材を見極める基準を策定します。必要であれば、自社内でDX推進に成功している人材の共通点を洗い出し、採用時の評価シートに反映させることも有効です。

  • 育成の仕組みづくり:単発の研修に頼るのではなく、テンプレート・チェックリスト・OJT評価がセットになった“現場で忘れない仕組み”を作りましょう。例えばDXツール操作マニュアルだけでなく、それを使って現場をどう改善するかまで踏み込んだケーススタディ集を用意し、OJTで現場適用をフォローする仕組みです。



現場でDXを定着させるのは「人と運用設計」

建設DXはツール導入がゴールではなく、「運用設計」や「前倒し工数の確保」、「評価・育成の仕組み」といった要素で成否が決まります。これから求められる人材像とは、抽象的に“デジタルに強い人”というより、現場の一次情報を判断できるレベルの品質に整え、滞留を減らし、手戻りを潰せる人だと言えます。国の方針としてもBIM/CIM、ICT施工、遠隔臨場、電子小黒板、i-Construction2.0などが次々と打ち出され、現場は確実にデータ前提へ移行しています。こうした潮流の中で、最後はやはり「人」が鍵です。技術を現場に根付かせる人材育成と運用デザインに、本質的な注力をする企業が今後の競争力を握るでしょう。


もしそのプロセス自体に手探り感があるなら、採用コンサルティングや採用代行(RPO)といった外部パートナーを活用してみるのも、一つの手です。専門家の視点から、DX人材の要件定義や評価基準の整理、面接設計、入社後のオンボーディング支援までを一貫してサポートしてもらうことで、初めてのDX人材採用でも、組織にフィットする人材を見極めやすくなります。

社内だけで抱え込まず、「採用のやり方そのものを、専門家と一緒に再設計する」。それは、現場に本当に必要な人材を迎え入れるための、前向きな投資になるはずです。


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